本資料の体裁及び内容
本集成の特色
①江戸時代の寺社奉行所・勘定奉行所・町奉行所及び評定所資料の全貌を紹介…江戸幕府の三部行所が決済した司法・行政・立法に関係する資料を精選して掲載。
②完璧な内容と詳細な解説…この「祠部職掌類聚」は寛政10(1798)年に、「江戸幕府編纂物」として作成されたことが知られているが、その全貌を俯瞰するための資料はあまり見いだされていなかった。今回の刊行にあたっては、主要な図書館及び関係諸機関の貴重資料を博捜し、江戸幕府内部における政策立案、司法処理、行政指導などについて、その全貌を把握できる資料を厳選した。「解説篇」において、「祠部職掌類聚」の書誌・研究動向・内容などを詳細に叙述。
③保存・閲覧用としてのマイクロフィルム…マイクロフィルムは保存・閲覧として活用することを意図して製作された。これはDVDの有効活用期間が特定されていないことによる。
④閲覧用としてのDVD…閲覧のためのDVDには索引を完備し、年代、主要事件などの検索に活用できる内容構成とした。
⑤あらゆる分野で活用可能な資料集成…日本法制史学、日本史学、日本経済史学のみならず、歴史地理学、日本政治史学、日本文学など、あらゆる学問分野で活用が可能。
本資料の成立
目次構成
◆近世法制史資料集成(第II期)-祠部職掌類聚(2)-
(2012年5月刊行、マイクロフィルム・DVD、本体価格30万円)既刊
□「三奉行留」、□「相談書」(I)
「祀部職掌雑纂解題」
吉田 徳夫(関西大学法学部教授)
『祀部職掌雑纂』は寺社奉行の記録であるから、寺社に関係する大部の記録であることは言うまでもないが、また評定所に関する記録でもある。即ち、同史料は、寺社関係史料群と評定所関係史料群に二大別して考えることができる。近世の法制史料は、江戸幕府法を中心として、武家や公家に対する法律のみならず宗教関係の法律も制定されていた。包括的な江戸幕府の宗教法はもとより、個別に宗教教団を取立て、教団ごとに本山を定め、本山による統制が図られてきた。近世法の分野にも色々とあるが、従来は、この宗教関係の法律に関する史料の研究は顧みられることが少ない分野であった。また評定所は江戸幕府の最高議決機関と考えられるが、幕府から明治政府へ資料が移管され、またそれが東京大学へ移管されたが、関東大震災の折りに、全て消失したということであり、東大には明治政府から東大へ移管したときに作成された目録しか残っていない。評定所に関しては史料に恵まれず、この面での研究も成果が乏しいまま推移してきた。ここに紹介する『祀部職掌雑纂』は寺社奉行の手により編纂された近世法制史料の白眉のコレクションであり、これにより寺社奉行のみならず評定所の研究の進展が期待される。
ここで紹介する寺社奉行の記録を『祀部職掌雑纂』と称しておくが、現在確認されている『祀部職掌雑纂』は、内閣文庫本と静嘉堂本(松井本)、さらに丹波篠山の青山文庫所蔵にかかる三種類がある。丹波篠山の青山文庫は寺社奉行を務めた青山家に伝来したものである。静嘉堂本には「高崎文庫」という蔵書印が押され、篠山青山文庫本には「青山文庫」の蔵書印がある。内閣文庫本は『内閣文庫所蔵史籍叢刊』の中に『祀部職掌類聚』と称して刊行されている.同書に寄れば「日本政府図書」の蔵書印があるが、これは明治二〇年に内閣修史局が古書肆から購入して後に押されたものである。内閣文庫本は、全一三冊ですべて寺社関係の記録である。
内閣文庫本に関しては、上記の『内閣文庫所蔵史籍叢刊』中にある『祀部職掌類聚』についての福井保氏の解題があり、それによると同氏は内閣文庫本と静嘉堂本の『祀部職掌雑纂』とを比較対照して、名称の類似性があると指摘し、両本共に寺社奉行を務めた上野国高崎藩主であった大河内(松平姓青山家)輝和の編纂にかかる文献であると推測している。松平輝和は天明四(1784)年から寛政一〇(1798)年にかけて、寺社奉行を務めた人物である。橋本久氏の研究は『大阪経済法科大学法学論集』に発表され、篠山の青山文庫所蔵の『祀部職掌雑纂』に関するものであり、目録を完成させようとした研究であり、また静嘉堂所蔵の『祀部職掌雑纂』の目録を翻刻された。また青山文庫の『祀部職掌雑纂』の中から適宜、今まで史料紹介がなされてきた。以上の『祀部職掌雑纂』は三つの機関に所蔵されているが、何れも松平輝和の編纂物と考えられ、内容的にも重複するが、篠山の青山文庫本が質量ともに勝っている。また篠山の青山文庫にしか存在しないものもある。例えば、同じ高崎藩で編纂された『地方凡例録』がそれに当たる。総合的に考えれば、静嘉堂本が編纂物としては原本か、それに近いと思われる。篠山の青山文庫本は、原本を写したものと思われる。
寺社奉行は、幕府職制の中でも三奉行中で、筆頭に位置する。他の奉行が旗本クラスの者が就く職であったが、寺社奉行に限り、譜代の大名が就任する職であった。また江戸幕府の最高議決機関である評定所は、老中を中心として、三奉行が構成員となり、また大坂城代等が江戸在府中は評定所に列席する例となっており、その関係から評定所に記録が残されてきたと思われるが、『大坂都督所務類纂』が寛政年間から文政年間のものが全六〇冊ほど残されている。評定所で審理される事項は、法典の編纂、例えば御触書の編纂等を含み、また三奉行が管轄する訴訟の審理を職掌とする。既に紹介されてきた裁判記録『御仕置例類集』などと比較対照することができる史料でもある。また法令、判決、問答などと称する江戸幕府法研究に付け加えて、評定所の一座による「吟味」が判決原案を作成していることから、この「吟味」も江戸幕府法の研究に欠かせないことになる。
ここに紹介する『祀部職掌雑纂』は、評定所構成員としての記録であり、また寺社奉行固有の職掌である宗教関係事項の記録となっている。前者は、今まで紹介されたことのない評定所記録であり、評定所一座の連名になる訴訟の吟味、評議記録や、三奉行留、進達類、相談書、張紙留、相談書などを含んでいる。この『祀部職掌類聚』に関する研究は、まだまだ今後の課題である。
書誌情報
ISBN-10: 4760304029
ISBN-13: 978-4760304028
発売日: 2012/05