満州・蒙古における阿片・財政・金融・通商・産業関係資料集成 1937-1945(1)
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商品コード: ISBN978-4-7603-0420-2 C3820 \800000E

満州・蒙古における阿片・財政・金融・通商・産業関係資料集成 1937-1945(1)

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「満州・蒙古における阿片・財政・金融・通商・産業関係資料集成 1937-1945(1)」
沼野英不二収蔵資料
(愛知大学豊橋図書館所蔵)
マイクロフィルム(全23リール)
ISBN978-4-7603-0420-2 C3820 \800000E
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「沼野英不二収蔵資料解説」

                     愛知大学教授 森久男


1 愛知大学所蔵「江口圭一文庫」と「沼野英不二収蔵資料」

 江口圭一教授は愛知大学法学部に長期間勤務してのち、二〇〇三年三月末に定年退職されて、愛知大学名誉教授に推薦されたが、その半年後(九月二六日)に急死された。一一月三〇日、江口都夫人の出席のもとで愛知大学旧名古屋校舎(三好町)において「江口圭一先生を偲ぶ会」が開催された。年末、江口教授のご遺族から同氏の蔵書を愛知大学に寄贈したいという申し出があり、翌年これらの蔵書は愛知大学豊橋校舎図書館で整理・所蔵することになった。ここに紹介する「沼野英不二収蔵資料」(以下「沼野資料」と略記)は、故江口圭一氏の所蔵資料の一部である。
 江口教授の蔵書は厖大で、豊橋図書館に運び込まれたのは、一般の図書資料のほか、古書店を通じて入手した各種の雑多な資料、他の研究者から寄贈された抜き刷り、コピー、講義ノート、メモ等が含まれている。講義ノートやメモ類に目を通すと、江口氏の学問研究の方法が手に取るように分かって、きわめて興味深い。江口文庫の図書資料は膨大であり、とくに軍事関係書籍が纏まったコレクションになっている。しかし、一般図書資料は他の図書館でも閲覧できるので、ここでは江口教授が古書店を通じて収集した各種の雑多な手記・報告書・内部刊行物・行政執務資料等について紹介することにしよう。
 江口教授の収集資料の中で分量的にかなり多いのが外務省資料である。外務省資料は戦後の混乱期にかなりの資料が焼却されたり、破棄されたりしたと言われている。江口教授が古書として収集された外務省資料には、役所内部の執務資料や一部が焼け焦げた報告書が含まれており、その出所としては、廃物として処分された資料が、古書市場に流出したものであることが分かる。分量として多いのは、戦前・戦時期の世界各国の政治・経済軍事事情の調査報告書で、中国関係の報告書もかなり含まれている。また、国際外交協会のような外務省の外郭団体が発行したパンフレット類もかなりの分量が残されている。
 外務省資料に次いで多いのは、軍事関係の内部資料である。中でも珍品と言えるのは、参謀本部編『満州事変史』(第一輯、第一輯附録、第三輯、第六輯、第六輯附録)、陸軍省編『陸軍実役定年名簿』(大正五年、昭和二年、昭和一〇年)、総力戦研究所編『占領地統治及戦後建設史草稿』(昭和一七年)、陸軍パンフレットの各シリーズ等々である。日中戦争の裏面史において、支那駐屯軍で通信傍受・暗号解読を担当した栄部隊が活躍しているが、江口文庫には、一九三八年~一九三五年の外国語放送の傍受記録である『各国宣伝放送』『哈府露語放送』『同盟来電(不発表)』『漢口UP・漢口ロイテル』『漢口日本語放送』等が残されている。このほか、個々の陸軍軍人が残した軍内教育資料、某軍医の厖大な日記・メモ類、盧溝橋事件の体験記等がある。
 江口教授は愛知大学法学部で政治史の講義を担当し、近代日本軍事史を中心に研究をすすめられ、その学説は満州事変から日中戦争・太平洋戦争を連続的に把握する「日中十五年戦争」という時代区分でよく知られている。このほか、同教授による日本の植民地・占領地域における阿片政策研究は、つねに引用される先行研究と言える。とりわけ同教授による近代日本阿片政策史研究を有名にしたのは、江口文庫の中の沼野資料に含まれる蒙古連合自治政府の阿片関係資料である。沼野資料が同教授の手元に収集された経緯は、次のとおりである。
 一九八二年秋に神田神保町の東條書店(のち、弘隆書院と改名。現在すでに廃業)が発行した古書目録の中に、「金井章治氏旧蔵 蒙古連合自治政府関係資料 〇〇万円)」が出品されていた。東條書店は戦前期の中国史・朝鮮史・植民地関係の古書籍を専門に販売しており、一部の東洋史・アジア史・植民史関係の研究者の間でよく知られた古書店である。江口教授はこの目録に記された「金井章次氏旧蔵」という資料の出所に興味を惹かれて、事前に電話で予約の注文をし、名古屋から東京へ新幹線でいそいで駆けつけるや、この古書店から少し離れた場所にある古書倉庫に案内された。
 この倉庫には古い資料ファイルがいくつも詰め込まれた三つの段ボール箱があった。江口教授は各ファイルを手に取って、その内容をパラパラとめくってみたが、そこには蒙古連合自治政府最高顧問金井章次が所蔵していた証拠はどこにもなかった。そのかわりに、「沼野英不二次長殿」「沼野英不二閣下」という宛先の資料が同教授の眼に飛び込んできた。そこではじめて、同資料の本当の所有者は蒙古連合自治政府経済部次長沼野英不二(ぬまのてるふじ)であることが明らかになった。古書店の経営者は、沼野の名前は一般にあまりよく知られていないので、古書目録の顧客の興味を惹くため、歴史上の有名人である金井章治の名前を借用したのである。
 沼野英不二は一八九六年に東京で生まれ、一九二二年に東京帝国大学法学部を卒業、大蔵省専売局に入り、一九四一年四月に煙草事業部煙草課長、次いで塩脳部長になったが、六月一四日付で蒙古連合自治政府経済部次長に異動してのち、一九四二年一〇月二七日まで蒙疆政府の経済政策の中枢で仕事をした。帰国後、神戸税関長、神戸海運局長などを歴任し、終戦後は民間会社の重役となり、一九八一年七月に死去した。
 沼野資料の多くは綴り込み用のファイルに種々雑多な資料が綴じられており、その基本的性格としては、経済関係の行政執務用資料で、農業・牧畜業・鉱山業・財政・金融・貿易・外国為替・物価・産業開発等に関連した各種の公文書・統計書・計算書・試算表の類が雑然と詰め込まれている。これらのファイルの中に、「阿片ニ関スル調査書類」という表題の書類があり、江口教授はこのファイルを発見して、これらの資料の購入を決意したのである。
 沼野資料の白眉である「阿片に関する調査資料」には、蒙疆地域で実施された阿片専売制度に関する各種の原資料が整理された形で収録されており、従来秘密のベールに包まれていた、蒙疆阿片制度の全貌を窺うに足る貴重な一次資料の宝の山であった。江口教授はこの資料の内容を分析するかたわら、阿片関係の他の周辺資料を加えて研究をすすめ、一九八五年七月二三日に岩波書店から『資料日中戦争期阿片政策』を出版している。本書は「第一部 解説/日中戦争と阿片」「第二部/資料阿片関係文書」という構成になっており、第二部に収録された資料の主要部分は沼野資料が用いられている。
 本書の刊行は太平洋戦争終結後四〇年の節目にあたっており、一九八五年八月九日付の『毎日新聞』の紙上に「日中戦争は?アヘン戦争? 行政側資料、大量に発見」と題する記事が掲載された。このニュースは海外で大きな反響を呼び起こし、台湾では八月一〇日付の国民党機関紙『中央日報』が、中国大陸では一一日付の『光明日報』が、毎日新聞の記事の要旨を報道し、一二日付の幹部向け内部情報誌『参考消息』は、一面トップで同記事を全文掲載している。
 『資料日中戦争期阿片政策』は蒙疆政権の阿片政策に関する解説と関連資料が中心となっているが、江口教授は同書を基礎として、日中関係史における阿片問題の意味を広域的視点から研究し、一九八八年に岩波新書『日中アヘン戦争』(新赤版29)を出版して、大東亜共栄圏における日本の阿片政策を全体的に俯瞰している。さらに一九九一年には岩波ブックレット『証言日中アヘン戦争』(NO.216)を出版して、満州国・蒙疆政権・海南島で阿片政策の実務を担当した及川勝三氏、および三井物産のイラン阿片輸入に従事した船員丹羽郁也氏にインタビューした記録を発表している。
 沼野資料に収録された蒙疆政権に関する経済関係資料の中で、江口教授が実際に利用しているのは、「阿片ニ関スル調査書類」という題名のファイルのほか、他のファイルに含まれている一部の阿片関係資料である。沼野資料には阿片以外に、各種産業・財政・金融・貿易・外国為替・物価等の資料がかなり保存されているが、その多くは行政執務用の詳細な統計数字が生のまま残されていて、纏まった資料集とはなっておらず、かなり読み込むのが難しいせいか、江口教授はほとんど使っておらず、大半の資料はなお未利用のまま残されている。

2 「沼野英不二収蔵資料」の構成

2-1 資料の形態

 「沼野資料」の主要部分は、蒙古連合自治政府経済部が所管する政策文書・各種法令・命令書・稟議書・報告書・統計書の形式で作成された行政執務資料で、予算・租税・財政投融資・輸出入貿易統制・対外為替・蒙疆銀行・物価対策・雑穀統制・物資動員配給等の資料が含まれている。産業関係資料としては、農林業開発、畜産振興、鉱山開発(大同炭鉱・龍煙鉄鉱)、各種会社設立関係等の資料が残されている。分量としてもっとも多くを占めているのは、財政・金融・貿易・為替取引・物価・生産統計・物資配給等の試算表・計算書・統計書で、数字は極めて詳細であるが、その意味を詳しく分析して読み込むのは容易ではない。
 行政執務資料の形態としては、B5(B4二つ折り)サイズで、特定の表題を付けて系統的に資料を収集したもの、ファイルに雑多なテーマの資料をランダムに綴じ込んだもの、および不規則なサイズの雑多な資料に分かれる。黒表紙で内容がまとまった資料は基本的にそのままの形態で保存し、市販ファイルにとじ込まれた資料は、一旦ファイルからバラバラに取り出してのち、テーマ別に再分類して保存した。
 印刷・製本した資料は、分量としては多くないが、第三者の閲覧を前提として編集されたものなので、研究目的で利用するには便利な形態の資料である。これには、官庁資料として作成された内部資料と一般刊行物の二つの部分に分かれている。後者の一部には沼野が収集したものではないものが含まれている。

2-2 大分類別の資料構成

 愛知大学図書館が所蔵する「沼野資料」は、請求記号W15/D/1-1~W15/D/30-19に分類され、その大分類別資料構成は次のとおりである。

 1-1~1-24   阿片1:阿片ニ関スル調査書類
             表題「阿片ニ関スル調査資料」。蒙疆阿片について体系的に
             収集された各種資料。
 2-1~2-16   阿片2:及川勝三阿片資料
             及川勝三氏が江口教授に寄贈した蒙疆政権の阿片専売の関係
             資料、および海南島で阿片栽培をしていた厚生公司の関係資料。
 3-1~3-10   阿片3:阿片関係各種資料
             複数ファイルに分散していた蒙疆のアヘン生産・収買、中国
             各地との阿片取引、宏済善堂への阿片譲渡等の阿片関係資料。
 4-1~4-12   阿片4:阿片関係各種冊子
             江口教授が収集した阿片関係印刷物、および及川氏から寄贈
             された阿片関係印刷物。
 5-1~5-27   雑穀1:雑穀関係書類
             表題「雑穀関係書類」。蒙疆で産出する食糧の生産・需要・
             輸出・取引機構・価格等に関する各種資料。
 6-1~6-26   雑穀2:成紀七三七年八月雑穀供出ニ関スル資料
             表題「雑穀供出ニ関スル書類」。蒙疆地域の農村における食
             糧供出に関する各種資料。
 7-1~7-15   雑穀3:雑穀対策関係資料
             複数ファイルに分散していた食糧生産・供出等に関する各種
             資料。 
8-1~8-15   鉱 業:龍煙鉄鉱、鉱業関係書類
             察南地域の龍煙鉄鉱、その他鉱業に関する各種資料。
 9-1~9-6   大同炭礦:大同炭礦関係各種資料(1917年2月25日)
             大同炭礦に関する各種資料。
 10-1~10-34  会 社:各種産業状況
             表題「各種産業状況」。蒙疆地域の各種産業に関する資料。
 11-1~11-18  満洲1:在満機構関係各種資料
             江口教授が収集した、満州国成立に伴って実施された在満州
              帝国政府関係機関の改革に関する各種の資料。
 12-1~12-7   満州2:満州国関係各種資料
              江口教授が収集した、満州国に関する各種資料。
 13-1~13-2   輸出入組合:輸出入組合ニ関スル書類
              表題「輸出入組合ニ関する書類」「厚和貿易組合書類」。蒙疆
              の貿易統制のために設立された二つの組合に関する各種資料。
 14-1~14-17   朝鮮貿易:対朝鮮貿易関係資料
              複数ファイルに分散していた蒙疆地域と朝鮮との輸出入貿易
              に関する各種資料。
 15-1~15-25   物 価:蒙疆物価関係資料
              複数ファイルに分散していた蒙疆物価問題に関する各種資料。
 16-1~16-31   農林業:蒙疆農林業関係書類
              複数ファイルに分散していた農林業に関する各種資料。
 17-1~17-8   金融1:金融関係参考資料
              表題「金融関係参考書類」。貯蓄・物価対策・金融機関連絡
              組織・富籤に関する各種資料。
 18-1~18-6   金融2:金融関係書類
              表題「金融関係書類」。成紀七三六年度為替資金計画に関す
              る各種資料。
 19-1~19-23   金融3:蒙疆銀行
              複数ファイルに分散していた蒙疆銀行に関する各種資料。
 20-1~20-2    財政1:成紀七三七年度歳入歳出予算
              表題「成紀七三七年度経済部所管一般会計予定収入報告書」               
              「成紀七三七年度経済部所管歳入歳出予算書」。
 21-1~21-26   財政2:予算関係資料
              成紀七三六・七三七年度一般会計・特別会計歳入歳出予算に               
              関する各種資料。
 22-1~22-39   財政3:租税関係資料
              複数ファイルに分散していた蒙疆政府の歳入予算・租税制度
              に関する各種資料。
 23-1~23-14   財政4:財政投融資
              複数ファイルに分散していた政府投資状況・政府公債・貨幣
              発行額等に関する各種資料。
 24-1~24-8    貿易・為替1:成紀十六・十七年度貿易為替関係資料
              複数ファイルに分散していた輸入計画・貿易資金計画等に関
              する種資料。
 25-1~25-16   貿易・為替2:貿易・為替資金計画関係資料
            表題「成紀七三六年度(自四月至三月)貿易・為替資金計画
関係資料」。輸出入貿易・貿易外収支・為替資金等に関する
計画関係の統計数値を中心とした資料。
 26-1~26-27   貿易・為替3:輸出入関係資料
            複数ファイルに分散していた成紀七三六・七三七年度の蒙疆
貿易に関する各種資料。
 27-1~27-52   貿易・為替4:為替資金関係資料
            複数ファイルに分散していた為替資金関係に関する各種資料。
 28-1~28-13   物 動:物資動員・配給関係資料
            複数ファイルに分散していた蒙疆地域における物動計画に関
する各種資料。
 29-1~29-14   畜 産:蒙疆畜産関係資料
            複数ファイルに分散していた蒙疆における畜産業に関する各
種資料。
 30-1~30-19   雑 纂:蒙疆政府各種資料
            各種のファイルに分散していた蒙疆政府の行政改革・人事管
理・厚生福利、沼野個人のメモ類・領収書・出張日記、およ
び種々な断片的資料。

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