商品コード: ISBN978-4-7603-0410-3 C3321 \50000E

第8巻 日本科学技術古典籍資料/天文學篇[9]

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第8巻 日本科学技術古典籍資料/天文學篇[9]
天文圖解、測地繪圖、談天、測侯叢談

 本巻は、「天文圖解」(一-五)、「測地繪圖」(一-十一、附巻)、「談天」(上、中、下;二篇上、二篇中、二篇下)、「測侯叢談」(上、下)の、四種類の天文學書を掲載した。なお「天文圖解」以外の資料は、全て漢籍であることを付記しておきたい。

(一)天文圖解(狩8-31840-6)
 元禄元(一六八八)年に井口常範によって著され、翌、元禄二(一六八九)年に刊行されている。五巻五冊で架蔵している図書館が多いが、この資料は、五巻六冊の構成である。四巻が上巻と下巻に二分されているために、このような構成になったと推定される。両者の間に内容的な異同は見られない。日本で最初に記述された一般人を対象とした天文学の啓蒙書とされていて、また、日本で「地球」という用語が最初に使用された資料であるとも言われている。だが、「九重天之圖」(九ページを参照)に、「地(球)」という用語が見られ、これが日本の書物に出てきた最初の例とされている。ただし、この図はマテオ・リッチの『両儀玄覧』(一六○三)年からの引用であり、「地球」という用語もその資料中で確認されている。また、マテオ・リッチの天文学はこの時期に日本に伝えられ、当時の知識人の間で広まり、元禄から宝永、正徳にかけて発行された書籍に出現するようになったとされている。また、当時は、「地球」という言葉を知っている知識人はいても、著作に用いる機会がなかったとも考えられ、井口が最初に「地球」という言葉を使った日本人という訳ではなかったと推定される。
 この時代までは、天文学やそれを応用した?学は、国民の日常生活や産業活動の重要な指針となる事柄にもかかわらず、京都の土御門家などが学問的権利を独占し、かつ、天体の運動と国家の興亡が結び付けられていたために、一種の機密扱いとされていて、天文学が一般に流布されることはなかった。その状況の中で、この「天文圖解」の公刊は、多くの人々に好評を博したのであろう。
 自序には、元禄元年の冬至の日付が掲載されている。冒頭に、七個の「天球儀」「渾天儀」「衆星図」「天地儀」「九重天之図」「須弥山図」「九重天之図」が掲げられている。巻之一は「天体総論」「天周之度」「日月行度」「日月会度」「閏月」「気盈朔虚」について記述されていて、推測としながらも、彗星の運動が回帰現象である可能性を述べている。これはエドモンド・ハレー(Edmond HALLEY、一六五六年十月二十九日 - 一七四二年一月十四日)が「彗星回帰」を唱える十七年前の出来事であった。巻之二は「月光盈虚」「天周歳周差」「日行盈縮」「月光遅疾」「定朔加減差」「昼夜刻差」「二十八宿度」「月行九道」、巻之三は「日月交蝕」「五星行度」「古今?法」「立成」という目次構成である。巻之四においては、?製作術、授時暦経を中心とした暦学、天文学の旧説について解説し、最後に中国の自然哲学について述べた「運気論」を付記している。巻之五では、太陽・月・五星の位置計算法について解説し、最後に「渾天地儀図序」として日本を中心とした地球の半球を掲げている。
 編者の井口常範は、江戸時代前期に活躍した医師であり暦算家。生没年は不詳。京都七条で医者を開業。前田甚右衛門に学び、元禄二(一六八九)年、この「天文図解」を編集し刊行。後に江戸に移り、水戸藩に出仕した。名前は、初めは新七。通称は鮫屋三五郎。また、この資料は多くの図書館・研究組織などで所蔵が確認されている。あまりに多数なので名称は省略した

(二)測地繪圖(狩7-21181-4)
 ?者は富路瑪(Edward Charles FROMME、エドワード・チャールズ・フロム 、イギリス人、一八○二-一八九○)、口譯者は傅蘭雅(John FRYER,ジョン・フライアー、イギリス人、一八三九-一九二八)、筆述者は徐壽(無錫の人)、発行者は江南製造局と記載されている。エドワード・チャールズ・フロムはイギリス軍人で、海外植民地の測量活動に携わった。また、ジョン・フライアーは宣教師で、啓蒙を目的として、江南製造局においてヨーロッパの言語で書かれた文献の中國語への翻訳活動に従事した。
 九十七個に及ぶ豊富な図版と表を用いて、測地及び天文の測量術を説いた基本的な漢文資料で、年紀は記載されていない。「総論」に始まり「測量底線」「分地面為三角形」「図内穹補県物」「行軍掲要」「準平線以定高低」「臨副鐫刻諸法」「照印法」「球形相関之事」「天文相関之事」と稿を進め、附録巻の「天文解題」で論攷を終えている。極めて啓蒙的な地上界及び天界測量の技術書であると思われる。日本の天文学の考究のために、このような西洋人が漢訳した文献の理解が必要になってくるであろう。

(三)談天(狩21368-6-10021)
漢籍「譚天」の訓点本である。「談天」も「譚天」も同一の意味内容で、おそらく日本での刊行に際して改題されたと推定される。福田理軒が訓点を施し、上中下、刊本3冊、文久元(一八六一)年の自序が記載されている。内容は、当時の天文学の最新知識を、多くの図版を活用して解りやすく紹介していて、詳細な月面地形、太陽黒点の特性、彗星、星雲と星団の図はいずれもみな印象的である。新しく発見された衛星と小惑星、連星、天の川の構造などに関する説明も詳細である。文政年間に刊行された、西洋天文学を一般向けに広く紹介したさまざまな天文学書と比べても、この「談天」の図や内容は、西欧の恒星天文学や惑星天文学が十九世紀にいかに急速に進展したかを実証している。
 原著者は、候失勒(ジョン・フレデリック・ウィリアム・ハーシェル、John Frederick William HERSCHEL、一七九二-一八七一)で、一八五一年に刊行された「天文学概要」(Outlines of Astronomy)の版に基いて、英国人の偉烈亜力(アレクサンダー・ワイリー、Alexander WYLIE)が口訳し、清国人の李善蘭が漢訳、一八五九(安政六、咸豊九)年に出版された。ジョン・フレデリック・ウィリアム・ハーシェルは、イギリスの天文学者、数学者で、天王星を発見した天文学者ウィリアム・ハーシェル(William HERSCHEL、一七三八-一八二二)の息子として、ウィンザー郊外のスラウで生まれる。イートン・カレッジを経て、ケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジに入学し、一八一三年に卒業。一八三四年から一八三八年までの四年間、ケープタウンで、北半球からは観測できない南半球の天体を観察、記録を残した。また、恒星の明るさを比較し、等級が0.41上がるごとにその明るさが二乗に反比例して暗くなること、さらに、一等星は六等星の約百倍の明るさであることを発見した。土星の衛星(ミマス、エンケラドゥス、テティス、ディオネ、レア、タイタン、イアペトゥス)、天王星の衛星(アリエル、ウンブリエル、ティタニア、オベロン)の名付け親としても知られている。その他の著作に『自然哲学研究に関する予備的考察』『1834-38年のあいだに喜望峰でなされた天文学的観測の結果』などがある。
 編者の福田 理軒(ふくだ りけん、一八一五〈文化五〉-一八八九〈明治二十二〉)は、名を泉、字を士銭、子銭、通称を理八郎、主計介、左近、謙之丞、鼎、号を理軒、竹泉、順天堂と名乗った。初期の名前は本橋惟義。大坂の商人階級出身で、江戸時代末期から明治時代にかけて活躍した数学者。子息が数学者の福田治軒(福田半)で、弟子の岩田清庸、松見文平などが知られている。兄の復とともに数学者の武田真元の門下生として、和算や暦術について学ぶものの、復が奉納した算額に書かれた証明を巡って武田真元と復が対立し、武田真元が復を邪道と糾弾して破門した。破門された復は、理軒とも激しく反発し、論争を引き起こしたために、理軒は徳島藩出身の数学者である小出兼政の門下生として学ぶようになる。なた、土御門家にも籍をおいたことがある。他の著作として、日本で最初に西洋の数学について紹介した「西算速知」、日本で最初に数学史の本として編纂した書物「算法玉手箱」、日本初の解析幾何学書である「代微積拾級訳解」、「測量集成」「明治小学塵劫記」「規尺便覧」「順天堂算譜」などが知られている。

(四)測候叢談(狩8-31865-2)
 「美国 金 楷理 口譯、金匱 華 ?芳 筆述」と記載されている。金楷理(カール・トローゴット・クレイアー、Carl Traugott KREYER)は、一八三九年一月一六日にドイツで出生し、一九一四年に逝去している。宣教師として中国へ赴任し、清朝末期の洋務運動の中で、多くの西洋の名著を中国語に翻訳する業務に携わった。測候とは気象観測の意味である。図版は数枚掲載されている。「総論」に始まり、「日光為熱之源」「空気愈高熱度数小」「論水陸伝熱散熱之異」「論空気中水気変化之理」「論風」「海風陸風」「温帯内風改方向之理」「琥風」「論空気之浪」「量風之法」「論海水流行」「論水気凝而降下」「測空気中所含之水気」「露」「霜」「霧」「論散熱之霧及水面之霧」「鬆霧」「成雲之理」「雲之形状」「成雨之理」「冰雹」「雪」「氷雪界」「雷電」「論推算天気中各事之変数」「定函数之各変数及常数」「定時中空気圧力之変数」「一昼夜圧力之変数」「空気中含水之数」「論空気水気圧力熱度與風之方向相関」「論空気中所現之形 虹仞」「論空気中所現之形 光環」「論空気中所現之形 極光差」「論空気中所現之形 雲之顔色」「論空気中所現之形 海市」「論空気中所現之形 電極光」「論空気中所現之形 隕星」「論空気中所現之形 旋風」など、気象観測の基本事項を叙述している。

 この巻を刊行するにあたって、構成する資料群は、いずれも東北大学附属圖書館の所蔵で、括弧内には配架番号を記した。刊行にあたってご協力をいただいた諸氏に感謝の意を表する次第である。また、このような「天文学」「数学」「薬学」「医学」「地質学」「博物学」「本草学」などの分野では、先学の方々の研究も道半ばで悪戦苦闘しているような状況下で、浅学の身でしかない編者にとっては、能力の不十分さを痛感した次第である。今後も、これらの分野に関連する資料の書誌学的な整理と、書かれている内容の全面的な総点検を行い、読者諸氏の期待に応えるべく努力する所存である。
      
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科学技術古典籍資料シリーズの特色

(l)近世に創作された日本の科學・技術に関係する貴重な古典籍を網羅---貴重な資料が全国各地に散在しているために、日本の科學・技術に関連する第一次資料を網羅することはできなかった。今回はさまざまな資料を捜索・掲載し、日本の科學・技術の歴史全体を俯瞰できる内容とした。

(2)充実した内容と斬新な構成----初學者にも理解できるように、古代から近世末期までを俯瞰できる各分野ごとの科學・技術史年表、基本的な文献の解題目録、完璧な索引を作成し、内容を豊富化した。既存のさまざまな概念にとらわれずに、事実としての日本の科學・技術の歴史を明らかにすることを重視している。古代・中世に、中国より渡来した科學・技術は、江戸時代に独自の発展をとげ、この時代の中期以降に西洋の科學文化に接触し、さらなる歴史を形成した。本集成は、この発展の歴史を辿りながら、現代以降の科學・技術のさらなる発達に寄与できうる内容構成とした。

(3)あらゆる學問分野で活用できる資料集成----この資料のみで、日本の科學・技術史を俯瞰できるのが大きな特色。資料篇、文献解題篇、年表篇、索引篇のいずれからも読むことが可能で、さらなる研究に活用するために便利な資料。日本科學史、日本歴史の研究者のみならず、作家、ジャーナリスト、社会科學・自然科學分野の研究者なども活用できる、体系的な資料集成。
[当初この日本科学技術古典籍資料シリーズは、「日本科學技術古典籍資料集成」として、独自のシリーズで刊行の予定でしたが、古代及び中世の日本独自の文献を所蔵している機関が少なく、また、所蔵していたとしても、複製が困難なために、新たなシリーズとして発行することを断念致しました。さらに、江戸時代に科學技術研究が最盛期を迎えたことと、この時代に発行された資料がほとんどであることを勘案して、「近世歴史資料集成」シリーズに組み入れることにした次第です。深くお佗び致します。]

各巻本体価格 50,000円
揃本体価格 550,000円
[内容構成に若干の変更がある時は、ご了解下さい]

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