商品コード: ISBN978-4-7603-0326-7 C3321 \50000E

近世植物・動物・鉱物図譜集成 第15巻 魚類・貝類・甲殻類 (1)

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50,000円    (税込:55,000円)
近世植物・動物・鉱物図譜集成 第15巻 魚類・貝類・甲殻類 (1)
〈2009年/平成21年刊行〉

◎伊藤圭介『錦?魚譜(2)』
◎栗本瑞見『皇和魚譜』
◎関根雲停『雲停鯉魚譜』
◎『萬寶魚譜』
◎小林義兄『湖魚考』
◎神田玄泉『日東魚譜』
◎栗本瑞見『異魚図纂』
◎『水族四帖』
◎藤良山書『魚譜』
◎栗本瑞見『栗氏魚譜』        


解 説
 この巻は「甲介群分品彙 上・下」「蟹譜 上・下」「梅園介譜」「錦?蟹譜 壱/錦?蟹譜初編 貮/錦?蟹譜續編 壱/錦?蟹譜續編 貮/錦?蟹譜續編 参」「魚譜」「異魚圖纂・勢海百鱗」「日東魚譜 壱・二・三・四・五」の七篇の資料で構成されている。これら七篇ともに、容易に読解することが可能で、かつ、漢文混じりの文章が多いために、あえて解読を行わなかった。しかし、内容の理解を容易にする目的をもって、別冊として完璧な「索引篇」を刊行したので参照されたい。
(一)武藏石壽編「甲介群分品彙 上・下」〈寄別一一・二三〉
 富山藩主前田利保(自知春舘主人)の自序の年紀は、天保七(一八三六)年六月となっている。全二巻の構成。介類の彩色図譜で、六○五種類の介類を、①蛤類(二枚介)、②蚌類(細長い二枚介)、③牡蠣類(カキ)、④無對類(アワビなど)、⑤螺類(巻介)、⑥貝子類(寶介)、⑦異形・石花類(ウニ、サンゴなど)の七項目に分類した。図は「六百介図」(十八世紀末に成立)に、文章は「丹敷の浦裹」(編者・成立年不明)に、それぞれ基礎をおいている。この書籍が成立するためには長い前史がある。「六百介図」は、美麗な図があるものの、記載文がなく、「丹敷の浦裹」には不完全な注釈文があり、これらの二書を整理・統合して、この「甲介群分品彙 上・下」が成立したといっても過言ではないであろう。武藏石壽も、ただ模写しただけではなく、新たな上記の分類的知見を加えている。
(二)著者不詳「蟹譜 上・下」〈一二三・三○〉
 著者名不詳で、蟹の美麗な彩色図譜である。著者名の記載はどこにも見あたらず、上が二八丁、下が二二丁、合計五○丁の構成となっている。栗本瑞見所蔵の蟹を模写したことが、随所に載されていて、解説も詳細とは言えない。
(三)毛利元壽「梅園介譜」〈寄別四・二・二・七〉
 天保十(一八三九)年の自序が記載されている。別名として、目録の最初に「寫生齋海蟲介譜」の別名が記されている。目録によれば、合計二五四種類の介類図譜で、①蝦類(一六種類)、②蟹類(二六種類)、③水蟲類(三種類)、④龜鼈類(五種類)、⑤蛤類(二○四種類)の五項目に分類されている。巻末に「源氏貝五十四種」と「新撰六歌仙貝」が附されている。美麗な介類の図を掲載し、それに対して、それぞれ、漢名・和名・形態・名称の由来などが詳細に記述されていて、興味深い内容となっている。ただ、配列方法などに難があり、解読するのに不便さを覚えるむきも多い。内容が優れているので、介類図譜としての体裁を整えれば完璧な図鑑としての役割を果たすことは間違いないとも言えよう。著者は寛政十(一七九八)年に生まれ、嘉永四(一八五一)年に天寿を全うしている。三○○石の旗本で、幕府の御書院番を勤めた。本姓は大江、号は梅園、写生齊、写真齋、?花園、華魁舎、梅龍園、字は直脚、通称は十郎左衛門。この「梅園介譜」の他に、「梅園魚譜」「梅園菌譜」「梅園禽譜」「梅園蟲譜」などの写実的な作品を数多く残した。
(四)伊藤圭介「錦?蟹譜 壱/錦?蟹譜初編 貮/錦?蟹譜續編 壱/錦?蟹譜續編 貮/錦?蟹譜續編 参」
   〈寄別一一・七〉
 著者は伊藤圭介(一八○三~一九○一)で、錦?はその号である。著者の略歴や研究歴などに関しては、他の巻に記載されているので、ここでは省略する。西洋世界、中国、日本で長い時間をかけて築きあげられた博物学・動物学・植物学の知見を整理・統合して、新しい学問体系を創造するために活躍した伊藤圭介の業績を顕彰することは重要である。惜しむらくは、展開するための時間が限られたことであろう。約百歳を数えて生きても、時間は足りなかったと言えよう。この意味においても、この作品は著者の初発の問題意識が十分につみこまれている。フランツ・フォン・シーボルトの「蟹譜」や中国の本草書などから抽出された精製物が埋蔵された作品である。後学の士が、この作品の内実をさらに発展させることが望まれる。
(五)小野蘭山編「魚譜」〈一二三・三一〉
  文久一(一八六一)年の年紀が奥書に記載されている。表紙に「藤良山書」の記述が見られるが、その詳細な内容は不明である。約八十種の魚類の図譜で、記載も簡潔である。図画は精密で、魚類の特長を正確に把握していることが見てとれる。
(六)伊藤圭介「異魚圖纂・勢海百鱗」〈亥二・二一〉
 「異魚圖纂」と「勢海百鱗」の二種類の書籍が合冊されている。いずれも記述は簡潔で、美麗な図譜が非常に印象的である。「勢海百鱗」は約五十種類の鱗魚の図譜で、タイ、ハゼ、カレイなどが美しい。
(七)神田玄泉「日東魚譜 壱・二・三・四・五」〈一三九・一二七〉
 この資料は、日本で最初に作成された「魚類・介類図譜」で、合計四回に渡って刊行された。それらの全体の巻数、収録されている魚類・介類の個数は以下の通りである。
 ①享保四(一七一九)年   七巻 三四四種類
  初版本である。
 ②享保一六(一七三一)年  四巻 三一二種類
  第二版で、初版を改訂してある。体裁は初版と同一であるが、種類は三二個も減少し、分類方法や内容  表記の変更が見られる。魚類一八四種類、介類一二八種類を収録。
 ③元文一(一七三六)年      五巻 三○二種類
  魚類一六六種類、介類一三六種類が記載されていて、彩色図も美麗で、内容構成も整然としていて、最  良の資料と言われている。国立公文書館に二部架蔵されていて、その内一部は自筆本である。
 ④元文六〈寛文一〉(一七四一)年 五巻 三三八種類
  最後の改訂版で、魚類二一五種類、介類及び魚介類の加工物など一二三種類を数える。本巻では、この  最後の改訂・増補版を採用した。その理由として、この資料が、彩色図も美しく、内容構成や記載も充  実しているためである。全体は五部で構成されている。目次を列挙すると以下のようになる。
   *第一部 河産鱗魚部・河産無鱗魚部・河産蟲魚部・河産蛤?部
   *第二部 海鱗魚部・沙魚部
   *第三部 無鱗魚部・海蟲部・海蟲柔魚部
   *第四部 糢?部
   *第五部 異魚部・脯???魚部
 この第五部が新たに付け加えられた一章である。他の版には見られず、独特な内容構成である。異魚とは、海牛、トクヒレ、磯女、海蛇、雪魚、石鯛など一七種類を含む。おそらく、既述の本篇には記載できなかった種を加えたのであろう。特に珍奇な魚類は見いだすことができない。脯???魚部には、魚介類の加工・貯蔵・調理方法、禁忌、特産地などが記載されている。この章において、乾燥・塩蔵・発酵などの技術を駆使しての、日本古来の生物保存技術が詳しく紹介されている。
 本篇の構成方法は、いずれの版においても、各魚介類について、「釋名」「気味」「主治」に分類して、丁寧に記述されていて、引用文献も明示されてる。「釋名」は、中国と日本における名称の由来や形態を、「気味」では生物の性質を、「主治」においては、薬物としての活用方法などを、それぞれ懇切丁寧に書いている。引用されている文献も、「シーボルト蟹譜」「本草綱目」「本草約言」「?書」「三才圖繪」など、中国と日本で発行された地誌資料、薬方書、動物学書、植物学書などが豊富に引用されていて、興味深い内容となっている。これらの各資料は、発行年により、巻構成・掲載される魚類・介類の個数・解説文の内容などが異なり、それぞれ異質の書籍である印象が深い。他にも、さまざまな資料が全国各地の図書館・研究機関などで所蔵されているが、全体を点検することは不可能なために、重要な図書のみを対象としたので、他は割愛せざるを得なかったことをお断りしておきたい。また、著者の神田玄泉は、丹羽正伯の門人で、医を業とし、本草学の研究に努めた。生年不詳で、延享三(一七四六)年に逝去している。一通子と号した。
 なお、これらの全資料は国立国会図書館が所蔵している。発刊を許可していただいた関係者各位に感謝するしだいである。さらに、この解説の執筆にあたっては、磯野直秀先生の労作である「日本博物誌年表」(平凡社、二○○二年刊行)を参考にさせていただいた。磯野直秀先生に御礼の言葉を申しあげる次第である。

二○一○年十月十日

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